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「ダイカスト金型」
斎藤勝政編,(財)素形材センター,2001年3月12日,全516頁,5,250円
素形材産業にとって金型の重要性はいうまでもない。
素形材センターではこれに着目し、さきに「プラスチックの射出成形用金型」を出版し、引き続き今回は「ダイカスト金型」を出版した。
これまで世間に金型全般の教科書やダイカスト全般の教科書はあったが、対象をダイカスト金型に限定した教科書はなかった。
この意味で画期的な文献である。
第1章「概要」では金型産業の中でのダイカストの位置付けが説明されており、金型産業の巨大さに比べるとダイカスト金型が生産量としてはごく小さい部分であること、それにもかかわらず技術的には高い水準を必要とすることがよく分かる。
第2章「金型設計法」ではダイカストの概要と金型設計手順の詳細が述べられている。
設計手順に沿って仕様の決定、構想設計、金型大きさの決定、変形と応力、分割面の決定、アンダーカット処理、鋳造方案、冷却設計、入れ子、などが詳述されている。
第3章「金型製作法」では金型材料、熱処理、表面処理、各種加工法、仕上法、補修法など製作の実際的な技術についてかなりの紙面を費やしてくわしく説明されている。
第4章「コンピュータ支援技術」ではCAD/CAM/CAT、CAE(充填,凝固、変形解析)などについて計算原理および最新の応用状況が説明されている。
さらに生産管理システムの節では金型工場での生産管理・品質管理について解説され、また3社での適用事例が報告されている。
第5章「金型の保全・管理」では保全技術・保全体制が論じられている。
第6章「周辺技術と新技術」では範囲を金型に限定せず、特殊ダイカスト法、実験法としての流れの可視化技術、および温度・圧力・湯流れなどのダイカスト固有の現象に対する測定技術について述べられている。
とくに特殊ダイカスト法の節では真空ダイカスト、無孔性ダイカスト、局部加圧、スクイーズキャスト、ダイレクトインジェクション、ホットスリーブ、半融ダイカスト、崩壊性中子、粉体潤滑など、ダイカストの最新技術の話題が取上げられ、しかもその多くは開発者自身が執筆しており、ここまでノウハウを書いてしまってよいのか、と気がかりになるくらいに充実した内容である。
本書の特色をまとめると、1)ダイカスト金型を主題としたおそらく世界でも初めての成書である、
2)したがって、この主題について今までになく詳細な説明がなされている、
3)コンピュータ応用など最新の技術も含まれる、
4)金型に限らず最新ダイカスト法についての解説にもなっている、などである。
大きな不満はないが、あえていえば、近年いちじるしい金型材料の性能改善についての記述があっさりしており、実情を知らない入門者は金型材料にはあまり進歩はないという錯覚をおこすのではないかと心配になる。
こういう分野については金型材料使用者の立場での中立的な執筆だけでなく、金型材料メーカーによる良い意味でのPRを加えてもよかったのではないか。
さらにひとついえば、金型保全に関連した重要問題である焼付きとか、その対策としての離型材の記述がほとんどない。
もっとも、それは金型技術というよりもダイカスト技術そのものだとも言えるから、すでに500頁を越えた本書に望むのは無理なのかもしれない。
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