技術文献紹介


「ダイカストの型割れ対策の研究報告書(2)」

編集発行 (社)日本ダイカスト協会・(財)素形材センター,2001年2月 全40頁
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サマリー
研究の目的と方法
 昨年度の調査によると金型の早期割れ事故は3569個の型のうちの62個であった。この種の割れの原因として従来から問題とされている金型肉厚(キャビティ―面から冷却孔までの距離)の限界を究めるべく前年度に開発した試験機を改良し実験をおこなった.本研究は日本ダイカスト協会に[ダイカストの型割れ対策研究委員会]を設けて実施した.

文献調査
 型割れの主原因はおそらく熱応力であると推定されるが,実際の割れを観察すると腐食現象をともなっていることから,このほかに応力腐食割れが関与している可能性が指摘された.そこで冷却水の影響を想定して淡水環境下の高強度鋼材の応力腐食割れに関する文献調査をおこなった.
 応力腐食割れを大別すると;1)狭義の応力腐食割れ,もしくは活性経路腐食と,2)水素脆化割れ,がある.金型材料は一般に低合金高強度鋼であって,淡水環境下では1)の可能性は低いが,2)水素脆化割れの可能性はある.水素脆化割れの特徴は;塑性変形速度が遅いときに起こりやすい,破断強度が高い材料ほど起こりやすい,鋼の電位の影響が大きくアノード分極で防止できる,圧縮応力では起こらない,割れは非金属介在物から始まる,割れモードは主として粒界割れである,などである.
 応力腐食割れ試験法には多くの種類がある.対象とする現象としては発生試験と進展試験がある.荷重負荷方法としては一定曲げ,一定荷重,動的引張,破壊力学試験,などがある.評価項目としては割れ深さ,破断時間、限界応力,最大応力歪量,最大応力値,破面率,その他がある.こうした知見や試験法を金型の割れ問題へ適用することは今後検討すべき課題である.

熱応力解析
 別に開発された金型熱解析プログラムによる温度場の計算結果にもとづき非定常的な線形熱弾性解析を行う差分計算プログラムを開発した.これにより前年度に金型試験片に関する予備的な検討をおこなったが,今年度はさらに詳細な検討をおこなった.
 対象とする形状は試験に用いる試験片に合わせ,水冷孔と表面との距離を5,4,3,2 mmと変化させた.1サイクル中の金型温度の変化に対応して応力も変化するので,温度勾配が最大になる時点を選んで応力を評価した.応力値は水冷孔の角部付近で最大を示し,その値は金型厚さの減少に伴い予想したように増加するのではなく,かえって減少する傾向を示した.このことは温度分布の直線性からのずれ,および肉厚減少に伴う剛性の低下によって説明される.
 つぎに1サイクル中の応力変化を調べた.この場合は孔の角部に注目した.金型の温度変化と応力の変化はよく対応しており,加熱サイクルの最後に温度・応力ともに最大値に達する.この応力値は金型厚さの減少とともに減少の傾向を示す.また加熱温度(錫浴温度)の上昇にともなって応力値ははっきりと増加傾向を示す.

実験装置の製作
 前年度に設計・製作した金型割れ試験機は水冷孔内面側に繰返し熱応力による早期割れを再現させることを狙いとしており,内部冷却と外部加熱(錫浴)の繰返しを特徴とする.これにより温度勾配を発生させることに成功したので,今年度は耐久試験が可能なように装置を改造し実験を実施した.
 試験片の主部分は外径30mm,内径20mmの底付き円筒形状で,底部内面の角はコーナーアールゼロとした.加熱には電気炉と錫浴を用い,内部冷却には水噴流式を用いた.外部冷却は冷却水への浸漬とエアーブローによっておこなう.ただし外部冷却は水冷孔の割れに対してはかならずしも本質的な要因ではなく,実際,最終的には外部冷却なしで試験している.
 あらかじめ温度測定により9秒間の錫浴浸漬で試験片の表面から1.5mmの部位が280℃に昇温することを確認したので,割れ試験では9秒の加熱サイクルを標準とした.

割れ試験
 昨年度とほぼ同じ方法で試験を行なった.とくに安全に注意し,吸引式の通水装置を使用した.金型材料にはSKD61を用いた.
実験1:硬さをHRC46に調整し,金型底部肉厚を1mmおよび2mmとした.加熱は従来通り600℃,9秒とした.冷却は加熱終了後内部水冷開始,そのあと外部水冷6秒とした.1mm試験片は8150回,2mm試験片は3613回の加熱・冷却の後,目視およびカラーチェックで観察したが表面・内面にクラックを認めなかった.
実験2:上記の結果に基づき割れをさらに促進することを目的に条件を変更した.すなわち硬さをHRC52に調整し,金型底部肉厚を5mmとした.加熱は650℃とし,内部水冷は連続,外部水冷はなしとした.5069回の加熱・冷却の後,目視およびカラーチェックで観察したが表面・内面にクラックを認めなかった.

試験片の断面調査
 試験片水冷孔内面コーナー付近には水あか等が付着しているので外観上は割れを認めなかったが,断面の顕微鏡観察の結果3個の試験片のいずれにもほぼ全周にわたる割れを認めた.第1回1mm厚試験片は割れ深さ0.1mm, 2mm厚試験片は割れ深さ0,04mmと浅く, しかも非直線的で枝分かれした形態であるが,第2回5mm厚試験片は深さは0.2mm近くあり,ほぼ45°方向に直線的に伸びた明瞭な形態の割れであった.
 第1回実験に比べて第2回実験で割れが顕著になった原因として考えられる要因は,硬さ増加,厚さ増加,加熱温度上昇,内部連続冷却,外部冷却なし,などが複合しており,どれが支配的要因であるかは現時点ではわからない.

結論
 計算および実験の結果を総合すると,水冷孔における金型肉厚に関する20mmあるいは25mmという従来の規準は技術の現水準からすると過度に安全側になっており,内部水冷を強化する必要のある場合はこれよりも薄い肉厚を試みることができる.ただし厚さの限界および薄いときの注意事項は今後の検討課題である.

ダイカストの型割れ対策の研究委員会(2) 委員長 新山 英輔

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